葉巻職人の情熱

技術の修得は職人になるために必要不可欠である。何年か時間をかけて経験を経れば、職人の基礎的な技術はより高いレベルに達し、マスター職人になること も夢ではない。しかし、技術と経験に加えて、3番目のコンポーネントがあり、それが情熱であることを忘れてはいけない。技術や経験のように、時間と努力を 持って取得できるわけではない。経験とは対照的に、情熱は年齢に依存していない。本当に才能のある職人とは、対象物に対して情熱を持ち続けることができる職 人であるはずだ。言葉を代えれば、情熱なしでも経験を積んだ職人になることはできるが、情熱なしにその職業においてランクされる最も高いクラスに達する ことは出来ない。年齢は情熱的な職人にとってそれほど重要な要素ではない。

Hamlet Jaime Paredes氏に会った時、私はこの真実に再び出会った気がした。この若者はどのようにマスター職人の地位に達したのだろうか。彼は1975年12月 12日にハバナで生まれた。18歳でパルタガス工場で働き始めたことが、葉巻ローラーとしての彼の人生のスタートだった。そして、僅か3年後には、段位 9段のTorcedor、葉巻職人として最高位のレベルに達していた。長年にわたって、私は多くのマスターTorcedorに会う機会を得たが、通常彼 らはParedes氏よりはるかに年配であった。どのように可能だったのか。もちろん、それが彼への最初の質問であった。「情熱的に学習すれば、技術をマ スターするための時間はそれほど重要ではありません」と彼は答えた。彼の語り方に余分な虚飾はなく、現実に、彼はとても控え目である。裏づけされた自信 を纏い彼は静かに話し続ける。ひとりの若者からの大胆なステートメントであると感じた。
彼の葉巻を作ることに対する情熱は、疑いようがない。言葉だけでなく、大きな業績でそれを証明することができる。2001年11月に彼は、パルタガス記 念日Torcedorコンペティションにおいて、第1位を受賞した。キューバにおいてでさえ、こんなにも若いマスターTorcedorが支持を 得たことは、異例なことであった。「情熱が秘密です」と彼は語り続けた。

Hamlet Jaime Paredes, Master-Torcedor. "Like a small child, a cigar needs to be treated with affection and passion to develop its full potential."段位9段のTorcedorがvitolaの全種類をマスターするのは当然なことである。けれど、こんなにも短時間に、異なるvitolaを作る技術 をどのように修得したかという私の質問には、「初心者である葉巻ローラーは、Petit CoronasあるいはCoronasのvitolaから始めます。私もそうでした。でも、私はのんびりするつもりはありませんでした。可能な限り迅 速に、私のDouble Coronasがパルタガス工場で認められることを目標に非常に頑張りました。私の考えでは、Double Coronasは最も難度の高いvitolaです。さらに付け加えれば、それは私がとても好きなvitolaなのです。一旦私が完全なDouble Coronasを作ることに成功したら、Torpedos、PiramidesあるいはSalomonesを含む他のすべてのvitolaを完全に修 得することは難しくはなかったのです」と彼は答えた。私はDouble Coronasを作る秘密についてさらに質問を重ねた。「秘密は単に技術ではありません。私の考えでは、Torcedorが最も大切にしなければならないのは様々な vitolaに対応するときの鋭い感覚です。特に大きな葉巻を完璧に作る時には、技術を超えた感覚がより重要となってきます。つま り、Torcedorはその感覚をvitolaに具現化するのです。この、情熱をベースにした感覚の持ち合わせが、真の意味でTorcedorの能力を はかる物差しなのです。」とParedes氏は、十分情熱的に答えた。では、彼はその情熱をどうやって毎日維持することが出来るのだろうか?情熱が日々 の繰り返しの過程で簡単にすり減ることは誰にでも経験のあることである。「毎日、葉巻を巻く度に、目の前のこの葉巻は、始めて葉巻を吸う人の最初の1本 になる可能性があると想像します。私が最善を尽くすことができれば、その葉巻スモーカーは、この最初の葉巻を通して生涯『私を』記憶するでしょう。」

もちろんTorcedorは、すべての条件を踏まえたうえで、出来うる最高の葉巻を作ろうとする。しかし、現実には、商品となった葉巻が、厳しい評価を する喫煙者を完全には満足させられないことも少なくはない事実である。Paredes氏はこういう現実に対してどのように考えているのだろうか?「人間は完 全ではありません。自然も必ずしも完全だとは限りません。時々、喫煙者は葉巻を小さな子供と見なす必要があります。小さな子供に対するように、葉巻に手 を貸してやる必要があります。喫煙者の情熱で、よく起きる小さな問題は、ほとんどの場合解決することができます。たとえば、葉巻が片燃えしたら、マッチ かライターの助けを少し必要とし、それを与えてやりさえすれば問題は解決してしまいます。愛煙家の葉巻に対する愛情、私に言わせれば、それも情熱です。」

今どこで働いているのですか。
「私は今Habana市に自分の店を持っています。自分の店で制約なしに働くことによって、いろいろなvitolaを作ることができます。毎日が、私 にとってとても重要な挑戦の連続なのです。」
あなたの英語は素晴らしいですね。
「英語という言語はできるだけ多くの人々に葉巻を作る私の情熱を伝えるための大切な道具です。伝えること、それも私の情熱なのです。」

Peredes氏は、Cigar Clubの招待で日本を訪れた。滞在中、多くの日本の葉巻スモーカーと時間を過ごし、静かに、そして情熱的に語り合った。最後のコメントは、 「日本の愛煙家のみなさん、キューバで再会しましょう。」

キューバはタバコだけでなく、次代の担い手もしっかり育てている。この若者が時間をかけて経験まで身につけたら、いったいどんな葉巻が巻かれるのだろう か。出来ればその葉巻を手にして、『彼』を生涯記憶する栄誉を得たいものである。たとえそれが私の最後の葉巻であろうとも。

Posted: October 6th, 2003   |   Category: シガーな人々