五反田で葉巻を
Nomura Tobacco Shopへ入ると、主人の野村氏は私を待っていてくれたかのように出迎えてくれた。
「オヨ・デ・モンテレイを二箱。」
すかさず、主人はコーヒーを出してくれる。これがまたここに長い時間いること
になる原因である。私はおもむろに購入したばかりのオヨ・デ・モンテレイの箱をあけ、一本取りだす。
それを見て「ちょっと、これを試してみてください」と、主人。
え?!何かなぁ、と期待と歓びで私は主人の背中をながめる。
すると何と、Romeo y Julieta!。
「いいんですか?こんなものもらってしまって。」
「どうぞ、どうぞ。今度新しく仕入れたもんでどんなものかと思いまして。」
私は家でゆっくり吸いたかった。それはそれ大事大事とばかりテーブルの隅の方
によせといて、再びオヨ・デ・モンテレイをやろうとした。すると主人はすかさ
ず、「じゃこれを。」と、次に出てきたのは、驚くなかれ、あのCohiba!なので
あった。
私は言葉を失い、ぼう然としつつも、この SIGLO I にターボライターで急いで火を
点けてしまった。
「こいつの等級はどうですか?仕入れ先が違うのですが。」
等級も何もない。Cohibaのあの豊潤な香りに私は酔いしれるばかり。SIGLO I はど
ちらかというと味が薄く、あまり私の好みではないが、ぜいたくは言いません。
家で落ち着いて楽しむよりも、パーティーで気取って吸うよりも、このNomura
tobacco shopで吸うCigarの何と美味いことか。見ると主人も SIGLO I に火を点け
ていた。
「いらっしゃいませ。」主人はひと吸いふかして、急いで立ち上がる。太い
cigarをくわえ、客を迎えるのはTobacco shopだからこそ。絵になる。
「パイプをお探しですか?」
「ええ」
「でしたらこれなんかどうです?NASA開発ハイテクパイプ。」
すごい形のパイプである。でもどこか気品がある。
「高いんでしょ?」
「高いからいいものなんですよ。それが資本主義というものです。」
すごい理論だけど、さすがtobacco shopの主人、説得力がある。
「じゃこれにしようかなぁ」
またひとり客が入ってきた。その人はどんどん奥まで入ってきて、ウォーキン
グ・ヒュミドールの中を漁り出した。何を選ぶのかなぁと見ていると、ドミニカ
産、それにホンジュラスのを一箱ずつ。豪勢だなぁと思いながらも、その人の前
で私は SIGLO I をふかしている。
「これどうぞ。」主人はその人にも SIGLO I を渡した。彼は私の前に座り、嬉し
そうに SIGLO I に火を点けた。んー、吸い方はなかなかのものだ。
また一人、今度はパイプ葉めあての客が来た。主人と挨拶をかわすと、レジにま
わって我が家のように勝手に上の方の棚から缶入りのを出してくる。
「どうぞこれ試してみてください。」
主人はまたしてもコヒーバをすすめる。実に気前のいい主人である。ところがで
ある。その人が恰幅のいい人だからか知らないが、主人が渡したのは SIGLO I で
はなく何と、ロブストではないか!思わず私は羨望の眼差しを向けてしまった。
「えー!?いいんですか?こんな高級なのをいただいちゃって。久しぶりだなぁ
コヒーバ。」
そうでしょう、そうでしょう。滅多に吸えるもんじゃありません。特にロブスト
なんてやつは。しかし彼もまた妙に堂にいっている。昔からCigarは俺の恋人
だ、といった風だ。
一癖も二癖もある中年男、三人の客。向かいあってコヒーバをふかしてもいても
話すことは何も無い。主人が気をつかっていろいろ三人を取り持ってくれるのだ
が、共通の話題なんかあるわけは無い。黙々とCigarの煙をもくもくとふかすば
かり。いたたまれなくなった様子で主人はロブストの男に話しかけた。
「ものすごいものをコレクションしてるんですよねぇ。」
「日本の甲冑。武具ですね。」
もう一人の SIGLO I にも主人はふった。
「僕は蝉。昆虫の。」
そして私。
「宜興窯の急須。」
ますます沈黙は深くなった。それでも店いっぱいにコヒーバの豊潤な香りが満ち
あふれ濃密な時間が流れて行く。会話などなくても、このなごみがたまらない。
ああ、また9時過ぎまで私はNOMURA Tobacco shopにいることになってしまった。
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