葉巻の時間

time_of_cigar1城アラキ
A5版、本文280頁、カラー頁2/3
アスペクト刊、定価3800円
ISBN 4-7572-0807-3

今年もせわしい季節がやってきた。何故か12月は、時計の針の進みも、街ゆく人の足はこびも速くなるような気がする。乾いた空気の中でちょっとした潤いが欲しくなる。

待望の本が発行された。城アラキ著「葉巻の時間」だ。すばやく手に入れクリスマス休暇まで読まずに我慢の決意も空しく、哀しき活字中毒者は新しい本特有の香りを味わい、洒落た装丁を愛でているのだ。(まるで葉巻)こうなったら火をつけるしかない。(本は葉巻と違ってカッターは必要ない)さらっと斜読みだけでもとページを括って驚いた。いわゆるガイドブックのジャンルには収めきれない葉巻に対する著者の深い想いが、圧倒されるパワーでせまってくる。作品は4部構成でそれぞれの完成度はかなり高い。特に第1部のThe Story of Cigarsは、日本の近代文学者たちから、なんとブロックまで取り上げていて、読みごたえ十分。又、第3部のHow to Smoke a Cigarは著者自身の失敗も含めた実体験をもとに書かれており、ビギナースモカーの福音となるだろう。

time_of_cigar3第2部のCigar Catalogueは、パーソナルの色合いが濃厚な内容で、タイトルを「ぼくの Cigar Catalogue」あるいは著者が文中で表現している「ぼく自身が集めたボックス」とした方が著者の意図がより明確に伝わってきたかもしれない。

不思議な作用をする本である。ページを括るごとに、ある時は本棚の前に立ち、葉巻と出会う前の若き日読んだ本を何十年ぶりに手にしてみる。ヒュミドールの温度と湿度をチェックしたくなる。キャビネットボックスの黄色いリボンはやっぱり絹ではないだろうかなどと思い立ち、取り出してリボンに触ってみる。等々・・・。葉巻に対する著者の真摯な姿勢が言葉に力を与えるのだろうか。葉巻に関した読み物は今までにも随分読んできたが、読みながら動き回ることなどなかった気がする。著者の「葉巻の時間」がいつのまにか私の「葉巻の時間」と重なってくるのだ。行間に見えかくれする著者の姿に、同じ葉巻愛好家として好感を覚えずにはいられない。
どんな読者にとっても、その人なりの読み方ができる本である。読後怖じけづくビギナーもいるかもしれないが、著者自身が葉巻暦2年の初心者であるという事実を支えにするだろう。葉巻とまったく縁のない読者が素直に楽しめるだけの作品の力もある。著者の思惑通り、そのうちの何人かは始めての葉巻に火をつけるに違いない。葉巻暦2年の初心者にここまでの作品を書かれてしまって、やっかみ半分、いじわるな読み方をするだろう上級者たちも、著者が葉巻にかけたはかりしれない情熱には心から拍手を贈るだろう。「葉巻を吸うようなヤツ」は、たった2年でー葉巻の最大の味わいは実は時間そのものなのだーと言えるところまで到達してしまった。10年、20年後の熟成された城アラキの「葉巻の時間」もぜひ読んでみたい。

Posted: December 9th, 2003   |   Category: 葉巻の本