葉巻とタンタン

tincig1タンタンは葉巻を吸わない。私が知る限りでは、冒険を求めて世界中をとびまわるこの若いリポーターは、葉巻に限らず一切のたばこと無縁である。車も飛行機もうまく操るが、たばこを手にしないことで、しょっちゅうたばこを吸っている大人たちに囲まれている勇敢な少年としての存在を鮮やかに現している。タンタンの創造者Herge氏はパイプたばこの愛好者にちがいない。24冊の作品中、善良で温和な年輩の大人はパイプをくわえ、ちょっと気取った若手たちは紙巻たばこが離せない。葉巻はというと、悪漢の指にはさまれ悪巧みの場に登場することが多い。ただのならず者ではなく、財力をもった悪を象徴して。「Cigars of the Pharaoh」という作品の中では葉巻が重要な役割を持つが、これもやっぱり不法な麻薬密売がらみの関わりである。そう、Herge氏は葉巻を好まなかった。これはかなり確実な推測だと考えられる。

それでも自他共に認める葉巻愛好家である私はタンタンを愛している。幼年期、タンタンは常に私の傍らにいた。私はすべての作品を何度も何度も読み、善が悪を必ず凌駕する世界でタンタンと一緒に地球を駆け回った。少年が思い描く大人の世界の一端を映し出す鏡として、タンタンの冒険は夢を与えてくれた。タンタンは他の多くのヒーローと違って超人的な強さや、特別な能力を持たない。私のヒーローは勇敢で、知的でそして穏健的だった。良き友を持ち、忠実で利口な犬と生きた。まさに少年の夢。私はタンタンだった。

今、私は大人の世界の一部となった。思い描いていた世界とはちょっと違っていたが、悪いことばかりではない。私の生活はタンタンの冒険とはかけ離れているが、日々小さな冒険をしている。そして、私は葉巻を吸っている。もしタンタンがまんがの世界で大人になることができたら、彼も葉巻を愛するのではないだろうか。自己抑制ができ、知識を備えた「cigar aficionado」として私の前にもう一度姿を現すのではないだろうか。

大人になった少年の夢。タンタンは私のヒーローなのだから。

Posted: March 4th, 2002   |   Category: 葉巻なエッセイ