中華街のシガーな散歩

cwmiyamatitle1シガーな散歩をしようと、我が友でありCigarの師でもある亜土里庵に誘われ横浜 中華街へ出かけた。

『みやまフォト』 横浜あたりのCigarショップと言えば、そごうデパート、元町ヒュミドール杉島、みやまフォトショップがある。その中で、みやまフォトシ ョップは中華街の真ん中に位置し、中華料理や中華食材の匂いにまじってCigar の匂いがする店だ。Cigarの品ぞろえも豊富。濃厚にして美味なる中華料理を堪 能したシガースモーカーは是非とも寄ってもらいたい店だ。店の中に入ると(普 通は店頭でTobaccoを買うのだが)、なんとNomura Tobacco Shopを彷彿とさせる ような、椅子が2~3あって、コーヒーの用意もされ実にアットホームな店内なの である。Nomura Tobacco Shopと違うところは、強面の主人ではなく美人の女主 人がいるところ。グリーンのワンピースがよく似合い、そこはかとなく色香がた だよう。彼女自身もCigarを週に3~4本嗜み、その含蓄も深くCigar業界にたいへ ん通じているのに驚かされた。椅子を立つことをためらわせるほど女主人の Cigarの話は面白い。話に熱中していると客がきた。「あのー、はじめて葉巻を吸うのですけど。どういうのがいいでしょう。」女主人はすぐに立って、手ごろなCigarを目の前にならべた。すかさず亜土里庵はそのCigarの吟味をはじめる。その若い男性客に選んだのが、ジオコンダ。すぐに吸うというので、カットする。亜土里庵の懇切丁寧なCigarの吸い方伝授が行われた。手振り身振りをまじえた説明に、さぞ若いビギナーは喜んだことだろう。

cwmiyama1ところで我々もCigarを楽しまなければならない。中華料理合うべく濃厚なCigar をということで、選んだのがクァバであった。これを持って我々は外に出た。中華街で点心のいちばん美味い店という情報を女主人から得て、我々は教えられる ままその『菜香』という店に向かった。中華街はいつでもほんとに人が多い。み んな満腹した顔で嬉しそうに歩いている。

『菜香』 の店の構えは改装になったのか、まだ新しいようだ。でも中華街ではめ づらしくセンスのいい作りだ。何人か行列を作っていたが、すぐに入れた。 メニューは豊富。あらゆる点心がそろっている。その多さに迷ってしまったが手 当たり次第、メニューの最初の方から注文した。
又焼包
チャーシューの入ったまんじゅう。チャーシューはよく味がしみこんで美味しか った。
鮮蝦餃子
エビ入りの蒸し餃子。皮は薄く半透明。中がきれいに見える。それに豚肉入り餃 子もたのんだ。
牛肉焼賣
牛挽き肉を使った焼賣。これは珍しい。
春巻
皮がちょっと厚かったが、中の野菜はいい味が出ていた。
包子
一口噛むと中から熱い肉汁が出てくる。豚肉のいい匂いがして絶品。
このあたりで、もう満腹状態。お酒は紹興酒をやりたかったが、亜土里庵は苦手 というので、ビールと共に食した。そのビールのラベルが、これまたいかにも中 華街らしく詩仙李白の詩が書かれてあるのだ。
兩人對酌山花開
一盃一盃復一盃
我酔欲眠卿且去
明朝有意抱琴來
んー、いい詩だ。この詩だけでキリンビールの味が別物になってしまい、酔い方 も酒仙になった気分。
さて、と一息ついて、回りを見渡すと、当然ながら食事をしている人ばかり。亜 土里庵も私もCigarをやりたい衝動に襲われたが、どこかよそで楽しむことにす る。

店を出て、再びみやまフォトの方へ歩いて行く。みやまフォトの店の前を通り過 ぎ右に行くと、そこに中華の象徴ともいうべき關帝廟があるのだが、境内は線香 の煙で充満してはいるものの、Cigarの煙を混ぜるのはちょっと無理があるよう だった。そこで吸うのは諦めて、左に取って返すことにした。みやまフォトをま た通り過ぎ、しばらく行くと、『山下町公園』 がある。そこならベンチもあるだろうし、ゆっくりできるに違いない。が、しかし工事中の柵がはりめぐらされ、中には入れない。公園の真ん中では、いかにもコテコテ趣味の中華風の亭を建築中で あった。我々は柵を擦り抜け、一途ベンチを目指して歩き始めた。とそのとき、
「だめですよ。入っちゃ。」
数人の工事関係者が大きな声で呼び止めた。
「ええ、ちょっとベンチを見るだけですから」
何とも言い訳がましい、ほとんど言い訳になっていないことを言って、それでも 我々はCigarを吸うため、ベンチに向かった。
「特別あつかいはできませんよ。みんな入って来てしまう。」
気がつくと、6人くらいにとりまかれている。これは諦めるしかない。我々はそ そくさとその公園を出た。
近所には港が見える公園や山下公園があるが、ものぐさな我々はそこまで足を運 ぶ気にはなれなかった。しかたなく、人通りのはげしい道端で火をつけることに した。亜土里庵はポケットから自分が巻いたというCigarを見せてくれた。ジッ プロックバックの中のCigarはバット型をしていた。その武骨な形に思わず笑っ てしまった。取りだして匂いを嗅ぐと、なかなかのものである。巻き方もしっか りしていて玄人はだしである。
「へー、いいですね!これはすごい。」
道端でCigarの吟味をしているあやしい中年男二人を、通行人は何と見ただろ う。私はそのCigarを大事にショルダーバッグの中にしまい込み、とにかく 今吸 うべきCigarは先ほどのクァバに決め、火をつけることにした。道端でおもむろ にCigarをカットし、道端で遠火でバーナーライターでおもむろに火をつける。 一吸い大きく煙を吐いて、煙の行方をながめやる。通行人が見ていようがかまわ ない。うまいものはうまいのだ。クァバの煙が、曇り空の彼方に消えてゆく。 シガースモーカー放浪の旅もそろそろ終わりにしたいと思っても、なかなかいい 店が見つからない。

『悟空』 という中国茶専門店の前に来た。1階は中国茶を販 売しており、2階ではお茶が飲めるようになっているが、ここは明らかに禁煙。 しかし中国茶とCigarなんてとんでもないというのは早計だ。私はかつて中国茶 の香りを味わいたいがために紙巻きたばこを止めたという経験を持つが、Cigar は違った。これがまた実によく中国茶に合うのだ。両方とも強烈にして甘美、鮮 烈にして妙なるアロマを持つ。この二つのハーブが出会うとき、絶妙の地平がひ らけるのだ。
Cigarを吸うことの出来ない店の前で、こんなことを言っても仕方がない。とこ ろが亞土里庵はごく自然に、当然のように、茶の木が植えてある鉢の土の上に、 吸いさしのCigarを置いて中へ入って行った。一瞬、私はためらいがあったもの の、そういうもんなのだと自分に言い聞かせ、あとにしたがい、私の吸いさしも 亜土里庵のCigarの横にならべ、店の中へ入って行った。
店内の中国茶の量に圧倒される。亜土里庵はCigarについては詳しいが、中国茶 については私の方がよく知っていた。自尊心をかなりくすぐられて私は一つ一つ 説明していった。ついでに、どんなCigarが合うのかも独断と偏見をまじえて。 武夷の大紅袍。これは文句無くコイーバ。濃厚な味に豊潤な香り。一啜りするた びに味蕾はよみがえり、あらたに刷新されたコイーバの豊かな一吸いが味わえ る。
安溪鐡觀音。グローリアキュバーナ。蘭の花の鐡觀音の香りはまさに中国大陸の 香り。中国とキューバが政治の上だけでなく、このアロマにおいても邂逅する。 獅峰龍井。パルタガスの甘味をほどよく分解してくれる。さわやかな口中をパル タガスの醇厚なアロマが充満する。
白毫銀針。モンテクリスト。白毫茶の清廉な蓮池のような香りは、モンテクリス ト・エスペシャルにぴったり。いまだかつて経験したことのない未知なる味覚の 世界が広がる。
亜土里庵は私のことを、あきれたのかあるいは畏敬の眼差しか、ただ遠くの方で 見ているだけだった。
いいかげんシガースモーカー放浪の旅も疲れてしまった。どこか落ち着けるとこ ろはないだろうか。中華街のメインストリートの雑踏の中を、Cigarをくわえた 二人がかきわけて行く。すると前方に雑踏から見え隠れして、オープンカフェら しきものがあらわれてきた。

『カフェ・ド・クリエ』 あそこだ。あそこしかない。 テーブルが一つ、椅子が二つあいている。中華街らしからぬカフェで、先ほど食 べた料理がイタリアンかフレンチになってしまいそうだが、やはりここは多国籍 文化国家日本なのだと妙に納得して店へ入る。亜土里庵にテーブルをとっておい てもらって、私はエスプレッソを二つ注文する。ちょっと薄めのエスプレッソだ が、これでようやくCigarを心ゆくまで堪能できる時がきた。Cigarな散歩がいつ のまにか放浪の旅になってしまったが、終着地はいつでもここだ。亜土里庵と共 に楽しむCigarのなんと美味しいことよ。となりのテーブルで中国語まじりで話 す熟女集団がうるさいけれど、我々二人はCigar王国の王様二人となって、煙の 世界の住人となる。中華街の雑踏をはるか下界に見下ろしながら、この馥郁たる Cigarの煙に身を委ね、人生のとっておきの一時を過ごすのだ。
我々はこの王国でまた会おうと再会を約して、カフェを出て石川町駅の方へ歩き だした。

Posted: July 9th, 2000   |   Category: 葉巻な場所